安楽浄土にいたるひと
五濁悪世にかへりては
釈迦牟尼仏のごとくにて
利益衆生はきはもなし
『浄土和讃』20〔560〕
弥陀の回向には往相・還相の二つがあります。ここでは還相回向のことを書きます。
還相回向は、浄土に往生して一旦成仏した者が、菩薩の姿になって再び人間界に還り来て、有縁の人びとを救済する働きを、阿弥陀仏から与えられているという意味です。
上記の和讃は、弥陀の浄土に往生した者が、五濁悪世に還り来て、釈迦如来と同様を救済すること限りない、と詠まれています。還相回向の内容を説明されたものです。
これに関して、「高僧和讃」の「曇鸞讃」34に「弥陀回向成就して、往相・還相ふたつなり、これらの回向によりてこそ、心行ともにえしむなれ」と詠まれ、さらに還相回向について「還相回向ととくことは、利他強化(きょうけ)の課をえしめ、すなわち諸有に回入して菩賢の徳を修するなり」〔584〕とあります。
つまり還相回向は、菩薩の行うべき自利利他の行のうち、利他の衆生教化の菩薩行であり、仏の慈悲をつかさどる菩賢菩薩の功徳を修める行為であると教えています。
◇親鸞さま独特の還相の菩薩行
第22願は還相回向の願と呼ばれ、浄土で成仏した後に再び人間界に還って衆生済度の菩薩行を行えるようにすると誓われた願です。
従って、還相回向は死後の話ですからこの世の衆生には全く縁のない話と思われていました。
ところが親鸞さまは、入信と同時に往相回向と還相回向の二つが念仏者に与えられると説かれ、往生を現世に引き上げたばかりか、浄土で成仏した後の還相の菩薩行も現世の入信時に回向されるとされました。
信心と同時に、往相の弥勒菩薩と同じ位となり、同時に還相の普賢菩薩の行も回向されることは死後の往生を現世のものとするうえに、成仏後の菩薩行までも現世の回向とすることとなり、一切の信心獲得の一念に凝縮されることを意味します。
浄土教といえば、死後の救済を説く夢物語と思いがちですが、親鸞さまは即得往生・住不退転を説いて、往生を現世の救済とされ、さらに還相回向も同時に与えられると説いて、成仏した後の菩薩行さえも信心とともに与えられると教えられ、現世の救済をいっそう実感させてくださいました。
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